さすがに米中貿易戦争も大詰めか、第3四半期経済実績

そもそも米中貿易戦争とは、昨年5月末、アメリカのトランプ大統領が突然に「長年にわたる米中間の貿易不均衡は許しがたい」と一方的に宣言して、1988年に日本を対象に制定されたというアメリカの国内法「スーパー第301条」を発動して、今後中国からの輸入品に一方的に「制裁関税を課する」と発表して、実際には昨年7月6日にその第1弾として中国からの輸入品340億ドルに対して25%の上乗せ関税を課すことを始めたことが発端である。

中国にしてみれば突然に売られた喧嘩であったが、すぐに反応してアメリカからの輸入品に報復関税を発動するなどして、今日まで1年半もの間、世界はトランプ大統領の気まぐれな言動に振り回され続けてきた。
結果的には本欄で筆者がたびたび指摘したように、やはりこの戦争を続けることはアメリカ側にとって負担が大きく重荷であり、中国側にとってはそれほど大きな痛手にはならないということが少しずつはっきりしてきたようである。

貿易統計のデータを見ても、今年第3四半期1‐9月実績で、中国の対米輸出は-11%、輸入は-26%と大きく落ち込んだが、貿易収支で中国側の黒字は2%しか減少せず、逆に中国の対世界貿易総額は人民元ベースで2.8%増加、全体の貿易収支は9ヶ月で3,000億ドル近い黒字で、昨年全年の3,500億ドルを上回るのは確実な情勢である。

米中貿易戦争の最大の被害者は、関税を課されて高い日用品を買わされるアメリカの一般民衆と、中国に投資して中国でモノづくりをしてその製品を本国アメリカに輸出しているアメリカ資本の中国企業であろう。
最近になって、おそらくこのまま米中貿易戦争を続けると、アメリカ国内での矛盾が噴出して収拾がつかなくなりそうな雰囲気になってきて、トランプ大統領も1年後に控えた大統領選挙での再選に障害となる気配を感じ始めたようである。
結論的に1年半続いた米中の貿易戦争もいよいよ大詰めであり、手打ちをしなければならない時期になってきたことは明らかである。
中国側もトランプ大統領は率直、かつ大変分かりやすい大統領であるとして、同氏への対処の仕方が分かってきたようで、反中意識がさらに強い民主党の大統領よりもむしろ望ましいかもしれないとの意識も強くなってきており、時にはトランプ大統領の再選を支持するかのように、アメリカ側に調子を合わせているようにも見える。

本稿を記しているのは11月10日であり、情況としては、中国商務部は「段階的に関税を撤廃することで合意」という言い方をしており、一方の米国側はトランプ大統領も含めて「まだ合意していない」と反論している情況であるが、何らかの合意書にサインすることは既定の事実となって、その場所をめぐる折衝が続いているだけで、大詰めであることは間違いない。
トランプ大統領も自分が始めて、結果的に自分の喉に突き刺さりそうな自作自演のこの米中貿易戦争を早く終結して、多くの米国民と共に良いクリスマスを迎えたいと願っているはずである。

さて米中貿易戦争にばかり目を奪われがちであるが、この戦争自体の世界経済への実質的影響はそれほど大きいものではない。
各国が心理的な嫌気に陥ることでの消費景気後退は気になるところであるが、実際のデータ的には世界経済はアメリカを除いて数年に一度の大変な不況期を迎えている。
国際通貨基金(IMF)は3ヶ月ごとに世界の経済成長率の予測を発表しているが、今年10月に発表した世界経済予測(WEO World Economy Outlook)で、2019年の世界経済成長率は3.0%であるとした。
1年前の昨年10月時点での予測は3.7%成長であったので、実に1年で0.7%も世界経済の成長率予測を引き下げたほどに、急激な世界経済の減速である。特に欧州がひどく、今年の経済成長率の見通しはイタリア0%、ドイツ0.5%、フランスとイギリスは1.2%とさんざんである。

その世界経済減速の主要な原因の一つが中国経済の減速であることは否定できない。
今年の第3四半期の中国の経済成長率は6.0%と1990年以来の低い成長率となった。但し1990年は今から30年足らず前、日本では昭和が終わり、平成が始まった年である。
当時の中国経済の大きさは現在の2.2%にすぎず、現在の経済成長では1年で当時の経済規模を2つ3つ増やしていることになるので、経済指標としてはおよそ比較する意味がないぐらい昔のことである。
この中国経済減速の原因であるが、日本のマスコミ報道を見ると何でもかんでも「米中貿易摩擦の影響を受けて・・・」と片付けてしまう傾向がある。
しかし今月発表された今年第3四半期までの中国経済実績を見ると、中国の景気後退は2017年秋の第19期中国共産党大会で決議された「構造調整政策による金融危機回避」に基づく意図された減速であることが分かる。

典型的な例は政府からの補助金や奨励金を打ち切られて、税優遇もなくなった自動車販売であろう。
今年は販売台数が前年比10%前後減少するという過去に例が無い販売不振に陥っている。電気自動車の急速な普及で消費者が模様眺めで買い控えたことも原因であろう。

2017年の世界の自動車販売台数は9,730万台で、中国の販売台数はその30%の2,888万台、アメリカの販売台数の1.5倍以上、日本の販売台数の6倍も売るのが中国の自動車市場である。
中国にこれほどの新車販売台数が必要かを冷静に考えれば、誰もが「多すぎる、中古車の普及もあるし」と気が付くはずである。
そんな理由でこれまでの一直線の販売台数増加傾向に対して、2019年は逆方向の前年比10%程度の台数減少が見込まれる。
これは日本の軽自動車を除く普通車販売台数約300万台が殆ど無くなるような減り方である。
産業のすそ野が広くて影響力の大きい自動車産業の成長に逆噴射をかけた形になったので、製造業全般の景気と成長に対して多大な負の影響を与えて成長を減速させた。

中国経済の成長減速のもう一つの原因は、これまでの経済成長を牽引してきた固定資産投資増加率の急激な減少である。特にインフラ投資の増加率減少は急激で、2017年までは毎年20%以上の増加率で増えてきたが、2017年11月の第19期中国共産党大会で「構造調整政策による金融危機回避」が決議された後の2018年以降は前年比4%前後の増加率であり、前年比減少こそないものの増加率は急減していることで、当然ながらGDP成長率を減少させる。

インフラ投資は今後とも重要ではあるが、日本の新幹線に相当する高速鉄道を例にとると、建設を始めて10年ほどにもかかわらず2018年の総延長は3万kmに達して、世界の高速鉄道総延長距離の60%にもなった。
また建設開始以来50年以上の日本の新幹線の総延長距離3,000kmの10倍にもなっている。
すなわち、中国は毎年日本の新幹線総延長距離に相当する高速鉄道を建設してきたのであるから、これはすさまじいインフラ投資としか言いようがない。
これらの建設資金は国や地方の借金を増やす形で調達されてきたので、このまま採算が取れない高速鉄道を増やし続けることは、経済合理性の観点から将来的に禍根を残すことになりかねない。

中国のGDPに対する全債務比率はおよそ260%でアメリカと同程度と言われているが、日本は400%を超えており、日本の二の舞にならないように、そろそろ債務のGDP比率を制御すべき時期に来ているといえよう。

(総経理 古林恒雄 2019/11/10記)

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